では早速、本日のテーマはこちら。
中途半端に知ることでかえって損するエアコンの知識
この内容でお伝えしたいと思います。
エアコンコーナが賑わい始めるシーズンになりました。
最近は店舗に来る前にネットで色々な情報を調べる方も増えています。
興味を持って調べてもらうのは嬉しく感じるのですが、時には危うさを感じるようなケースもあります。
「間違いとも言い切れないけど、あっているとも言えない」
ような話がよくあるからです。
これは何も、お客様が覚えきれていないとか間違って覚えているという話ではありません。
そもそも、発信されている情報自体に中途半端なものが多いということです。
エアコンは家電の中でも最難関。
ぼんやりとしか理解していないまま説明している人も多いでしょう。
そして怖いのが、検索の上位にあるウェブページや、たくさん再生されている動画でさえ同じことが言えるということです。
動画のために色々リサーチしましたが、「プロです」みたいな雰囲気だったり、会社の看板を掲げてやっていたりするような、一見信頼度が高そうなものでも中身はイマイチだったりします。
中途半端な知識は、知ってしまうことで冷静な判断の妨げになることもあります。
ということで、この動画では最近よくある要注意パターンを紹介していきたいと思います。
△サイズは小さめで良い
エアコンには主に6畳とか主に14畳というように、畳数の目安が表示されています。
これをここではサイズという言い方にします。
よくある中途半端な情報①
最近多いのが、サイズは小さめで良いというものです。
その理由としてよく挙がるのが・・
畳数の目安などの表示は古いもので現在の住宅性能にあっていない
というものです。
確かに測定基準は50年以上も前のものが使われていますし、住宅性能が向上していることに対しては疑いようもありません。
小さめのエアコンで大丈夫なケースもあることは私も承知しています。
ただし、その一方で「エアコンの効きが悪い」というトラブルもなくなることがありません。
これは築年数の経った住宅に限らず、新築住宅の場合にもあります。
エアコンは・・
▶︎建物の種類
▶︎暖房の必要度合い
によって求められるパワーが大きく異なります。
そして忘れがちだけど重要ことに
地域差がドでかい
ということもあります。
地域差の参考情報
エアコンの電気代の目安を知るための数値の一つに地域係数というものがあります。
ざっくりいうと、省エネラベルに表示された電気代の目安が地域ごとにどう変わるかを表したものです。
よく寒冷地の例になる盛岡の場合は2.4で、これは盛岡は東京の2.4倍もの電気代がかかるということを表しています。
この数字は必要なエアコンのパワーを直接示しているものではないですが、地域差が大きいことを知るための1つの参考にはなるかと思います。
と、このように・・
建物・使い方・地域 によって必要な能力は大きく異なる
わけです。
さらには、暑がりとか寒がりといった個人差もあるでしょう。
同じサイズでもグレードによって出せるパワーが違ったりもします。
一口に夏と言っても、「あっついなー」くらいで済む日もあれば、「最高気温の記録更新するんじゃ」みたいな日もあります。
それなのに・・
「畳数の目安の基準は古いし、住宅性能は良くなっているから小さめで良い」と一括りにしてしまっていいものなのでしょうか。
いやよくない。
現状と照らし合わせる
もし仮にそれほどまでに住宅性能が上がっているとしたら、エアコンのパワー不足をめぐるトラブルはもっと少ないはずです。
トラブルとまではいかなくても「エアコンでは物足りないから渋々石油ファンヒーターを使っている」という方はこのページをご覧の皆さんの中にも多くいるはずです。
小さくても良いと情報を発信している方は、この状況についてどういうことなのかきっちり説明してほしいものです。
私は何も「大きめを買った方がが良いですよ」と言いたいわけではないです。
建物とか地域差とか使い方を考慮して判断した方がいいんじゃないですか?
って言いたいだけなんです。
古い基準について
補足なんですけど、この「表示されている数字は古い基準に基づいている」という話は、エアコン販売の経験がある人なら大体知っているはずです。
私もかなり最初の方に教わりました。
それで中には、「古い情報がそのまま放置されている」みたいにイメージしちゃっている店員も多い訳なんですね。
実際は基準は何度か見直されていますし、もっと細かい使用条件に基づいた数値もあるんですけど、これを把握しているスタッフは超少ないです。
畳数の目安などの表示などは確かに古いものではありますが、現状を考慮して据え置かれているものです。
ほったらかしのものという訳ではなく、今でもしっかり参考になる数字であるということをお伝えしておきたいと思います。
△特定のサイズを選べ
×大きくしても変わらない
じゃあ次もサイズに関するものです。
特定のサイズ以外はコスパが悪い
とか
大きくしてもあんまり変わらない
みたいなものですね。
特定のサイズというのは2.2・2.8・4.0を買っておけばいいよ。みたいな話です。
こう言いたくなる理由もわかりますし、効率が良いといえばそうかもしれません。
よくある中途半端な情報②
そこから発展して、サイズを大きくしてもあまり能力が変わらない的な主張を見かけます。
いやそれは違うでしょ。
大きくしてもあまり変わらないというのは、主に暖房の最大能力や低温暖房能力を根拠に言っているのでしょう。
↓三菱Zシリーズの暖房最大能力と低温暖房能力
確かに冷暖房能力や低温暖房能力は14畳くらいを境にあまり変わらなくなります。
だからと言って、定格能力を無視して話を進めては大胆すぎるというものです。
定格能力とは
定格能力って何?といういうことなんですが、三菱重工のHPにわかりやすい説明があるので引用します。
"エアコンの場合、JIS規格に基づいた温度条件で機器を連続して運転した場合にその機器が安定して出すことの出来る能力が「定格能力」です。"
「これくらいの強さなら長く維持できるよ」という出力のことですね。
人間でいうと、長時間維持できるジョギングみたいなイメージです。
先ほどサイズをアップしてもあんまり変わらないと言っていたのは最大値の話です。
最大値は、「ずっとは無理だけど一時的になら頑張れる出力」ですね。
人間でいうと全力疾走のイメージですね。
ちなみにこれもあまり知られていないと思うんですけど、低温暖房能力も最大値です。
よく例に上がる14畳用と18畳用でそれぞれ数字を見て見ましょう。
主に14畳 | |||
畳数のめやす | 能力(kW) | 消費電力(W) | |
冷房 | 11〜17畳 | 4.0(0.4~5.3) | 960(70~1,350) |
---|---|---|---|
暖房 | 11〜14畳 | 5.0(0.4~11.3) | 970(70~3,500) |
低温暖房能力 8.2kW |
主に18畳 | |||
畳数のめやす | 能力(kW) | 消費電力(W) | |
冷房 | 15〜23畳 | 5.6(0.5~6.0) | 1,720(80~2,020) |
暖房 | 15〜18畳 | 6.7(0.5~11.6) | 1,580(80~3,670) |
低温暖房能力 8.4kW |
赤文字部分は最大値なので、「一時的には頑張れるけど、ずっとは続けられない」出力です。
確かにこの部分はあまり違いはありません。
青文字部分が定格で、長く持続できる出力です。
定格能力を同じようにグラフにするとこのようになります。
今度は最大能力の時と違って、サイズが大きくなるにつれて能力値も高くなっています。
まぁ、畳数の目安自体が定格能力をもとに決めているものなので当たり前なんですけどね。
マラソンで例える
これを2人のマラソンランナーに当てはめて見ましょう。
維持できる速度 | 一時的に出せる速度 | |
ランナーA | 4.0km/h | 8.2km/h |
ランナーB | 5.6km/h | 8.4km/h |
これを見た解説の人が「AとBのスピードは同じくらいです。ゴールタイムもそれほど変わらないでしょう。」
なんて言ってたら、「えっ、何言ってんの」って、その解説のおかしい点に気が付くはずです。
でも、エアコンの場合こういう解説がまかり通ってしまっているんですよね。
他にもこんなことが・・
さらに付け加えるとこんなことも言えます。
ダイキンの上位モデル、有名どころで行くとうるさらのRシリーズというものがあります。
こちらの暖房最大値や低温暖房能力は14畳用から26畳用まで全て同じです。
ダイキンRシリーズ
暖房最大能力(kW) | 低温暖房能力(kW) | |
14畳用 | 12.2 | 9.1 |
18畳用 | 12.2 | 9.1 |
20畳用 | 12.2 | 9.1 |
23畳用 | 12.2 | 9.1 |
26畳用 | 12.2 | 9.1 |
先ほどのグラフを見ていると、サイズを大きくしてもあまり変わらないように確かに見えます。
「そうなのか」って思わず納得しちゃうかもしれません。
ですが、これをダイキンのRシリーズに当てはめると、「14畳用も23畳用も同じです」と言っていることになります。
こうなると「よくわからんけど、流石にそうはならんやろ」って違和感を感じるんじゃないですかね。
このことからも最大能力だけを比べても説明として不十分だと感じ取れるでしょう。
他にも最大値が同じだからという理屈では、室外機のサイズが違う場合があることや、冷媒ガスの封入量が違うことに対して説明がつかなくなります。
冷暖房の最大値や低温暖房能力は、性能の違いが表れやすいポイントなので私もよく案内に使います。
ただし、それだけ見れば良いというものではありません。
最大能力も大事ですが、それと同じように定格能力も大事です。
「定格能力なんて言われてもよくわからん」とか、「そんなの気にしたことない」と不安に思う方もいるかもしれません。
でも大丈夫です。
わざわざ定格能力なんてチェックする必要はありません。
というのも、畳数の目安は定格能力をもとに設定されているからです。
冷房の定格能力が4.0kWなら14畳、5.6kWなら18畳というように、定格値に応じて畳数の目安が決められています。
畳数の目安に合わせてサイズを選べば、自然とそれに見合った定格能力になります。
そんなわけで、最大能力があまり変わらないからといっても、エアコンの能力が同じということにはならないということをお伝えしたいと思います。
というか、最大値が近いから性能も近いなんて言ったら、室外機のサイズの違いとか冷媒封入量の違いの説明がつかないでしょって思います。
まぁそれはいいんですけど。
14畳用か18畳用かは慎重に
リビング用のエアコンを14畳にするか18畳用にするかで悩む方は多いと思います。
図をご覧いただくと分かるように、14畳用と18畳用はエアコンのサイズ差の中でも一番開きが大きい箇所です。
冷房定格能力は4.0と5.6で3割ほどの差があります。
ワンサイズの違いでも能力の差が大きいので注意してください。
×小さい方が電気代が安い
次は電気代の話です。
よくある中途半端な情報③
エアコンの電気代は小さい方が安いというものですね。
ダイキンのうるさらRシリーズを例にすると
14畳用 年間電気代目安 28,800円
18畳用 年間電気代の目安 44,700円
確かに小さい方が安いように見えます。
ですがこれは単純に比較していいものではありません。
というのも・・
14畳用の電気代は14畳の広さに取り付けた場合のもので
18畳用の電気代は18畳の部屋に取り付けた場合のものだからです。
部屋が狭い方が電気代が安くなるのは誰しも納得がいくと思います。
じゃあ、この14畳用が付いているこの部屋をリフォームして18畳にしたとなったら、電気代がそのまま28,800円では済まないことも想像できますよね。
部屋が広ければ電気代は高くなる シンプルな話です。
電気代はエアコンのサイズというよりは、部屋の広さで決まる部分が大きいです。
部屋が広いのにエアコンだけ小さくしても電気代が安くなるわけではありません。
むしろ強度の高い運転が続くことで、割高になる可能性もあります。
最近は広いLDKのお家も増えています。
広いリビングは魅力もありますが、その分それに見合った電気代がかかるということをお伝えしたいと思います。
余談ですけど、これまでの能力の話と違って、これはエアコン販売に関わる人は知らないといけないことです。
能力値の話は詳しいことは分かってなくても、経験でなんとかなるものです。
それに対して、電気代の件は知らないと、ただただ間違ったことをお客さんに伝えることになるからです。
小さい方が電気代が安いっていう店員がいたら要注意ですよ。
△フィルター自動掃除はいらない
最後はフィルター自動掃除についてです。
フィルター自動掃除に関してはお伝えしたいことがいくつかあるので、また別の動画で話したいと思います。
手短にお伝えすると・・
最近はフィルター自動掃除のデメリットが注目されがちですが、メリットはイマイチちゃんと紹介されていないように感じます。
お手入れ次第というところはあるんですが、基本的にはあった方が良いと思っています。
あと、すごく大事なことなんですけど、フィルター自動掃除の有無をエアコン選びのスタートにするのは効率が悪いと思います。
フィルター自動掃除をつけるかつけないか悩むシーンも確かにあるんですけど、悩んでも仕方ないシーンもあるということをお伝えしておきたいと思います。
詳しくはまたの機会にということで。
エアコン選びの注意点
最後にまとめの代わりに注意点をお伝えします。
最初の方にお伝えしたように、エアコンのサイズ選びは地域によって変わる部分が大きいです。
私は東京よりは寒い地域に住んでいるので、暖房の話題が多くなります。
それと同じように、ネットの情報もそれを書いた人の地域が基準になっているように見えます。
ネットの情報は全国から簡単にアクセスできる利点がありますが、必ずしも広い地域に当てはまるとも限りません。
そういう意味では、お住まいの地域で販売経験が豊富な人に相談してもらうのが良いと思います。
そう言った理由から、この動画のコメント欄にサイズの相談をいただいてもお答えはしませんのでご了承ください。
あと、小さめでいいとか、安いのでも十分などといった話を聞くと、「いいこと聞いた」「役立つ情報を聞いた」と信じたくなる気持ちもわかります。
ですが、エアコンに関して言えばどこでも誰にでも当てはまるような選び方というのはありません。
いくつかの情報源をチェックし、総合的に判断いただければと思います。
以上、最近よくある中途半端なエアコンの情報についてでした。
最後まで読んでいただきありがとうございます。