
この記事を書いた人: 「白物家電ブログ)」管理人
家電量販店での商品案内歴約20年(現役)。
ブログ運営10年以上、YouTubeチャンネル登録者3.3万人。
家電を買って試したり、データや仕組みに基づいて深堀りして考えるのが好きです。
YouTube▶白物家電チャンネル
「エアコンを最強にしても、部屋がなかなか暖まらない…」
「灯油は使いたくないし、何かパワフルな補助暖房はないだろうか…」
冬本番、このような切実な悩みから、オイルヒーターの併用を検討される方は少なくありません。
「部屋全体をじんわり暖める」というイメージから、力不足のエアコンを補ってくれる理想の相棒に思えるかもしれません。
しかし、その選択には「待った」をかけさせてください。
暖房能力を補うという目的において、オイルヒーターは電気効率の観点からおすすめとは言い難い選択肢だからです。
この記事では、「エアコンの暖房能力不足」という現実に直面している方へ向けて、なぜオイルヒーターの併用が推奨できないのか、その仕組みと理屈をデータで解き明かし、より無難に問題を解決するための道筋を徹底解説します。
目次
結論:能力不足を補うための「安易な併用」は推奨できない
まず結論から。エアコンの暖房能力不足を補う目的でオイルヒーターを安易に併用することは、「電気代」と「アンペア(電力許容量)」という、データに基づいた2つの明確な理由から推奨できません。
1. 暖房費が二重にかかり、想定以上に高騰する
部屋の暖かさに物足りなさを感じているというシチュエーションでは、エアコンは設定温度に追いつこうと強い運転を続けているはずです。
それだけでも電気代はかさみます。
そこへ、電気暖房の中でも特に燃費の悪いオイルヒーターを追加すると、暖房費が想像以上に跳ね上がるなんてことになりかねません。
Table 1: 主要暖房器具のランニングコスト比較表
暖房器具 | 消費電力の目安 | 1時間あたりの電気代目安 | 1ヶ月あたりの電気代目安 (1日8時間使用) |
エアコン (8畳用) | 約510W | 約15.8円 | 約3,792円 |
オイルヒーター | 弱: 500W | 約15.5円 | 約3,720円 |
中: 700W | 約21.7円 | 約5,208円 | |
強: 1200W | 約37.2円 | 約8,928円 | |
ホットカーペット (2畳用) | 約200W - 500W | 約6.2円 - 15.5円 | 約1,488円 - 3,720円 |
こたつ (中) | 約300W | 約9.3円 | 約2,232円 |
電気料金単価1kWh = 31 円(税込)で計算。消費電力は製品や使用状況により変動します。
この表が示す通り、オイルヒーターを「中」運転で併用するだけで、エアコンの暖房費に加えて、月々5,000円以上が純増します 。
能力不足のエアコンが常にフル稼働していることを考えれば、実際の請求額はさらに膨れ上がる可能性が高いのです。
2. 頻繁なブレーカーダウンで生活がストップする
電気代以上に深刻なのがアンペアの問題です。
多くのご家庭では、電力会社と30A〜40Aといった契約を結んでおり、これが一度に使える電気の総量の上限です 13。
Table 2: 主要家電のアンペア数目安
家電製品 | アンペア数 (A) の目安 |
エアコン (暖房・フル稼働時) | 最大20A |
オイルヒーター (1500W/700W) | 15A/7A |
電子レンジ (30Lクラス) | 15A |
ドライヤー | 12A |
IHジャー炊飯器 (5.5合・炊飯時) | 13A |
冷蔵庫 (450Lクラス) | 2.5A |
エアコンや炊飯器は常に最大で動くわけではありませんが、概算としてはこれくらいになります。
【生活シーン別 リスクシミュレーション(40A契約の場合)】
- シーン:冬の夜、帰宅後の夕食準備
- エアコンフル稼働 (20A) + オイルヒーター (15A) + 電子レンジ (15A) + 冷蔵庫 (2.5A) = 合計 52.5A
- 判定:危険(契約アンペアを大幅に超過し、ブレーカーが落ちる)
このように、能力不足のエアコンとオイルヒーターの同時使用は、日常生活の中で頻繁にブレーカーを落とす原因となり、快適な生活を著しく阻害するリスクをはらんでいるのです。
仕組みで比較:暖房の「燃費」で考える、根本的な効率の違い
なぜ、これほどまでにコストとリスクに差が出るのでしょうか。
それは、エアコンとオイルヒーターとでは、電気を熱に変える「燃費(エネルギー効率)」が根本的に異なるからです。
エアコン:電気の力で「熱を運ぶ」超・高効率な仕組み
エアコンの心臓部は「ヒートポンプ」と呼ばれ、電気で熱を「作る」のではなく、冬の冷たい屋外の空気から熱を「集めて、室内へ運ぶ」という魔法のような技術を使っています。
この仕組みは非常に効率が良く、投入した1の電力に対して、3倍から6倍もの熱エネルギーを生み出すことが可能です(定格条件時)。
少ない燃料で大きなパワーを発揮する、まさに「燃費の良いエンジン」と言えます。
オイルヒーター:電気を「そのまま熱に変える」非効率な仕組み
一方、オイルヒーターを含むほとんどの電気ヒーターは、電気抵抗に電気を流して熱を「作る」というシンプルな仕組みです 。
この方式は、投入した1の電力からは、最大でも1の熱エネルギーしか生み出せません。
これは物理的な上限であり、どれだけ最新のモデルであっても、この効率を超えることは不可能です。
つまり、暖房能力(パワー)を補いたいという目的において、エアコンの3倍以上の電力コストがかかるオイルヒーターを選ぶのは、非効率な選択なのです。
なぜ暖まらない?「併用」の前に確認すべき根本原因
エアコンの暖房能力は、機種のグレードによって大きな差があります。
当然ながら、暖房能力が高いモデルは高価にです。
そのため、「夏に冷房さえ効けばよい」という基準で安価なモデルを選んでしまう方は少なくありません。
しかし、エアコンはもともと仕組み上、冷房よりも暖房の方が効きにくいという特性があります。
結果として、冷房基準で選んだエアコンは「冷房は問題ないのに、暖房は物足りない」という状況に陥りやすいのです。
デメリット覚悟での「賢い使い方」
根本原因への対策がすぐには難しい場合、高いコストとリスクを覚悟の上で、限定的に併用する方法もあります。
ポイントは「エアコンを主役、オイルヒーターを脇役」と徹底することです。
基本戦略
エアコンを優先し、補助的に使う
まず、エネルギー効率で勝るエアコンを最大限稼働させ、部屋全体の温度をできる限り上げます。
オイルヒーターはあくまで補助役と割り切り、エアコンの温風が届きにくい足元など、どうしても寒い場所をピンポイントで暖めるために最小限の出力で使いましょう。
置き場所は「窓際」でエアコンを助ける
オイルヒーターを窓際に置くと、外からの冷気の侵入をブロックする「熱のカーテン」の役割を果たし、室温の低下を防ぎます。
これにより、主役であるエアコンの負担を少しでも軽減することができます。
根本解決への道筋:併用よりも先に検討すべき「ベターな案」
オイルヒーターの併用は、あくまで高コストな「対症療法」です。
長期的な視点で見れば、暖まらない根本原因にアプローチする方が、はるかに経済的で快適な冬に繋がります。
STEP 1:今あるエアコンの性能を最大限に引き出す
サーキュレーター導入
サーキュレーターで空気を強制循環これが最もコストパフォーマンスの高い一手です。
能力不足のエアコンでも、天井付近に溜まったなけなしの暖かい空気をサーキュレーターで足元に循環させるだけで、体感温度はいくらか改善する可能性があります。
エアコンの暖房のパワー自体があがるわけではないので過度な期待は禁物ですが、まず試してみることのできる方法ではあると思います。
加湿器導入
加湿器で体感温度を上げる冬の空気は乾燥しており、同じ室温でも湿度が低いと寒く感じます。
加湿器で湿度を40~60%に保つことで、体感温度が上がり、ウイルスの活動も抑制できます 。
これもまた、エアコンの力不足を補う強力なサポーターです。
スチーム式を使うと、わずかに暖房の補助になります。
(スチーム式加湿器は電気代が高いですが、その他の方式では余計に肌寒く感じる可能性が高まるので、スチーム式か、もしくはハイブリッド式が良いと思います。)
STEP 2:家の「熱の逃げ道」を塞ぐ
- 窓の断熱対策ホームセンターで手に入る断熱シートを窓に貼ったり、厚手で床まで届く長さのカーテンに変えたりするだけでも、外からの冷気の侵入を大幅に防ぎ、暖房効率を高めることができます。
STEP 3:【最終手段】暖房の主役そのものを見直す
上記の対策を施してもなお寒い場合、それはエアコン自体が限界を迎えているサインかもしれません。
多くの方が避けたいと思っているプランだとは思いますが、エアコンで暖房が物足りないなら、石油ファンヒーターを使うのが最良の選択肢だと思います。
灯油は使えない・使いたくないという場合は、オイルヒーター導入でも良いですが、電気代が高くなることと、頻繁にブレーカーが落ちるようになるかもしれないリスクがあることは忘れないでください。
まとめ:あなたの家の「暖まらない原因」に合った対策を
エアコンの暖房能力不足という問題に対し、安易にオイルヒーターを併用するのは、根本的なエネルギー効率の悪さから、暖房費の高騰とブレーカーダウンのリスクを伴うため、慎重になるべきです。
まずは、「なぜ暖まらないのか?」という原因を突き止め、サーキュレーターや加湿器といった、今あるエアコンの能力を最大限に引き出す工夫から始めてみてください。
それでも解決が難しい場合は、オイルヒーターを「局所的な快適性を補う脇役」として限定的に使う選択肢もありますが、それはあくまで一時的な対策です。
長期的に快適で経済的な冬を過ごすためには、ご自宅の環境に合った適切な能力を持つエアコン(特に寒冷地仕様)への買い替えが、最も賢明な投資と言えるでしょう。この記事が、あなたの暖房戦略を見直す一助となれば幸いです。