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【店員が回答】一番壊れにくいエアコンメーカーはどこ?

 

 

この記事を書いた人: 「白物家電ブログ)」管理人

家電量販店での商品案内歴約20年(現役)。

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家電を買って試したり、データや仕組みに基づいて深堀りして考えるのが好きです。

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エアコン売り場でお客様をご案内していると、最もよく聞かれる質問の一つが・・

「結局、どのメーカーが一番壊れにくいの?」

というものです。

ネットを検索すれば、「やっぱりダイキンが壊れにくい」「三菱は作りが堅牢」といった話をよく見かけますよね。

しかし、長年この業界にいる私の立場から言うと、「大手7社の間で、特定のメーカーだけが明らかに壊れにくい」ことを示す、信頼できる公的な統計データは存在しません。

大手7社:ダイキン・パナソニック・日立・東芝・三菱・富士通・シャープ

この記事では、なぜそのように言えるのか、そしてなぜ「信頼できるデータ」を集めるのがこれほど難しいのか、その理由を一つずつ丁寧に解説していきます。

1. なぜ「信頼できるデータ」が存在しないのか?

「そんな大事なデータが、なぜ無いの?」と疑問に思うのも無理はありません。

正確な故障率を計算するには、どうしても「分母」と「分子」となる2つの巨大な数字が必要になりますが、この両方を正確に把握することが、現実的に不可能なのです。

分母:国内で稼働しているエアコンの総数

まず分母となる、「各メーカーの、どのモデルが、いつ設置され、今現在も使われているのか」という総数を正確に把握する必要があります。

ですが、車のように登録制度があるわけでもなく、買い替えの際に古い機種がどうなったかまで追跡するのは、国ですら不可能です。

分子:期間内に故障したエアコンの総数

次に分子となる、「故障した数」なんですが、その「故障」の定義も曖昧です。

メーカーに修理依頼が来た分は集計できるかもしれませんが、町の電気屋さんが修理したもの、故障を機に買い替えてしまったもの、そもそも修理されずに放置されているものなど、全ての故障を追跡することはできません。

この「分母」と「分子」が不正確なままでは、どんなデータも「印象」の域を出ず、信頼できる統計にはならないのです。

2. よくある疑問:「〇〇ならデータを持っているのでは?」

それでも、「いやいや、どこかにはデータがあるはずだ」と感じる方も多いと思います。よくある疑問にお答えします。

Q. メーカーは自社のデータを持っていますよね?

A. はい、持っています。

ただし、それはあくまで自社に修理依頼が来た分のデータです。

そして何より、それは企業の存続に関わる重要な企業秘密です。もし自社に不利なデータであれば、それを公表することはまずあり得ません。

ですから、複数のメーカーの故障率を比べるのは現実的に不可能です。

Q. 家電量販店なら、修理受付のデータがあるのでは?

A. これもよくある誤解です。

量販店のデータは、「そのお店で、どのメーカーがどれだけ売れたか」という販売実績に大きく依存します。

例えば、A店でパナソニックがたくさん売れれば、数年後にパナソニックの修理依頼が増えるのは当然です。

これはパナソニックが壊れやすいことを意味するのではなく、母数(販売台数)が大きいからに過ぎません。このデータからメーカーごとの優劣を判断することはできないというわけです。

3. では、なぜ「壊れにくい」という評判が生まれるのか?

客観的なデータがないにも関わらず、ネットや、時には私たち販売員からも「ダイキンや三菱は壊れにくい」といった話を聞くことがあるのはなぜか考えてみます。

これは、客観的なデータというより、以下のような要因からくる「印象」や「ブランドイメージ」が、口コミとして形成・拡散されていると考えられます。

  • 業務用での実績:
    ダイキンや三菱電機などは、24時間稼働する店舗やビルで使われる業務用エアコンで絶大なシェアと信頼を誇ります。
    その「過酷な環境でも壊れない」というプロ向けのイメージが、家庭用にも反映されています。
  • 製品哲学:
    これらのメーカーは、奇抜な機能よりも「冷やす・暖める」という基本性能と耐久性を重視し、堅実な製品開発を行う傾向があります。
  • 価格帯:
    比較的高価格帯の製品が多く、「価格が高い=高品質で壊れにくい」という消費者心理が働きやすいのも事実です。

そして、私たち販売関係者がお客様から「どこのメーカーがいい?」と聞かれた際に、無意識のうちに特定のメーカーを挙げてしまう背景には、主に2つの心理的な判断基準が働いているように思います。

判断基準①:経験に基づく主観的な印象

私たちは日々、お客様から修理や買い替えのご相談を受けます。

その中で、「最近、〇〇社の修理相談が続いたな…」あるいは「そういえば、△△社の相談はあまり聞かないな」といった経験が積み重なっていきます。

この経験則から、相談が少ないメーカーを「壊れにくいのかもしれない」と感じ、お客様におすすめするケースです。

ただし、これには「販売台数のバイアス」がかかっています。

たくさん売れているメーカーの製品は、母数が多いぶん、相談件数も多くなるのは当然です。

この視点が抜け落ちてしまうと、個人の経験則が、まるで客観的な事実かのように感じられてしまうのです。

判断基準②:世の中の評判に合わせる心理

もう一つは、Web上の「ダイキン・三菱は壊れにくい」といった、広く流布している評判に、無意識に乗っかるパターンです。

これには、web上の情報を見た時に「自分が知らないだけで、きっと誰か詳しい人が正確なデータに基づいて言っているはずだ」という、根拠のない信頼が働いている場合があります。

また、「お客様が期待しているであろう答えを言った方が、話がスムーズに進む」という、コミュニケーション上の判断から、あえて世の中の評判通りの回答をすることもあります。

まぁ、多くの店員は「特別壊れにくいメーカーはないですね」と答えるか、もしくは、「ダイキンですね」(ダイキンはメーカー自ら高耐久を売りにしているため、壊れにくいという根拠を提示しやすいから)と答えるんじゃないですかね?

このようにして、「データはないが、なんとなく皆がそう言っている」という空気が作られ、特定のメーカーの「壊れにくい」という評判が、さらに強固なものになっていくわけです。

結論:本当に気にするべきこと

「どのメーカーが壊れにくいか」という、存在しない答えを探し求めるよりも、もっと確実な安心を得るための方法があります。

  1. 長期保証に加入する メーカーごとのわずかな差を気にするよりも、5年や10年の長期保証に加入する方が、万が一の故障に対して遥かに確実な安心に繋がります。
  2. 設置工事の質にこだわる エアコンの寿命は、製品本体の性能だけでなく、設置工事の丁寧さにも大きく左右されます。信頼できる販売店や工事業者を選ぶことが、結果的に製品を長持ちさせることに繋がります。

特定のメーカーの神話に頼るのではなく、保証や工事といった、より現実的な視点で製品を選ぶことが、「買ってからガッカリしない」ための最も安心な方法だと思います。

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